テキスト・アーカイヴ
■写真製版を歩く[番外編] スキャニング(どう入力するか)の基礎19項(初出:会報35号)
■06:回転方向によって解像度は違う

回転式の高性能ドラムスキャナの実用的な解像度の上限は1000DPIぐらいだが、その数字について考えてみよう。ドラムは、一秒間に20回転近いスピードで回る(ある会社のスキャナは175線で1インチ進むのにかかる時間が20秒、別の会社のスキャナでは毎秒15メートル進むというデータがある)。光電管が水平に移動しながら、光量を読みとっていく。1000DPIは、水平方向の解像度であり、ドラムが回転するタテ方向の解像度は、200線前後では500DPIぐらいしかない。

タテ方向とヨコ方向では情報量に差がある。同じ写真でも、厳密にいえばドラムにタテに貼り付けるかヨコに置くかで変わってしまう。タテ方向の、つまりは回転方向の解像度(これは基本設定値として決められておりオペレーシヨンで変更できない)が本質的な解像度というべきだろう。タテ方向の本質的な解像度を得ようとすればどうするか。ヨコ方向のピッチを変えることで計算上の情報量を得る。たとえば、175線タテ方向350DPIのスキヤナーで、解像度1000DPIの情報量を得ようとすれば、1000÷350=2.85%となり、ヨコ方向のピッチを狭くしスキャニング時の密度を285%にすればよいことになる。同じように、430線タテ方向782DPIの解像度をもつスキャナで作業を進めれば、128%となり、前者より細密な表現が可能となる。しかし、タテ方向の解像度が向上しているわけではなく、ヨコ方向の情報量の増加によって、見かけの解像度が向上している仕組みである。

■07:高細線製版は本質的な解像度の向上を要求する

色校正を見て写真がぼやっとしていると感じる。シャープにしたいなら、本質的な解像度を向上させないと、シャープネスは根本的には向上しない。本質的な解像度を向上させるには、スキャナに改造を加えるか、装置そのものを変えるしかない。通常の仕事では無理だろう。エッジ効果(画像の輪郭を強調する技術)を強めて、見かけだけのシャープさを装うほかない。

単純なまちがいでシャープネスが損なわれることもあるので注意しよう。133線で印刷するつもりでいたが、たとえば印刷適正のよいアート紙を使うことになり急遽175線で出力した場合、解像度が不足してぼやける。印刷会社の営業と現場の連絡ミスでも起こりうる。また化粧品の広告などでは女性の肌をなめらかに見せるためにエッジ効果を弱めて(スムーズネス)分解することがある。その設定のまま写真を解像すると、眠い調子になる。

通常、スクリーン線数は175線が上限だ。現在、300線や400線のスクリーンの製版が一部では実用化されており、高精細あるいは高細線製版と呼ばれている。200線を超えたものは、準高精細と位置づけられている。高精細で分解するべきか、どのくらいの高精細にするかは、さまざまな議論がある。高精細になれば、印刷がむずかしくなりトラブルが発生しやすくなるからだ。印刷物として階調をいかに再現するかはここでは措き、スキャニングだけに話を絞れば、高精細分解は本質的な解像度を劇的に高めなければ実現しないという点が重要だ。2000dpiを超え3000dpiクラスの解像度が要求される。

現状では、「6」で書いたようにヨコ方向の情報量を増して高細線用の分解をしている。当然、回転のタテ方向の分解能力もきびしく問われることになる。技術的な目標として、機会があれば積極的に挑みたい。

■08:濃度、ダイナミック・レンジについて知る

濃度は、0から10.0までの数値で表される。0は、完全な透明、完全な白である。10.0は完全な黒、絶対的な闇である。日常的な世界では、濃度0や10.0の物質はない。カラー・リバーサル・フィルムの暗部の濃度は3.0前後である。細かくいえば、コダクロームが3.5、E6処理系フィルムが2.5 3.0だ。製版用のフィルムが5.0前後の濃度をもつ。

明部から暗部までの濃度差を、ダイナミック・レンジという。カラー・リバーサル・フィルムはおおよそ3.0前後のダイナミック・レンジをもっていることになる。印画紙や印刷など紙媒体の映像では、濃度は約2だといわれている。スキャニングは、濃度3.0を2まで圧縮する技術だといえる。当然、解釈がなくてはならない。

■09:ドラムスキャナとフラットベッドスキャナの特質を知る

スキャナには、回転式とフラット・ベッド(平面スキャナ)式がある。ドラムスキャナが回転しながら、読みとり部が水平に移動するのが回転式である。斜行しながら読みとっていることになる。世上に存在する写真には水平垂直の絵柄が多い。水平垂直の映像を斜行しながらスキャンするとモアレが起きやすい弱点がある。受光部には光電管を使用しており、光に対する応答が素早く高速回転が可能である。

フラットベッド式では、受光素子が平面上に置かれた原稿に対して横一列に配置され、画像を水平に読みとっていくので、モアレの問題は起きにくい。しかし、光電管に比べるとフラットベッド式の受光素子であるCCD(電荷結合素子)の感度は低く、分解処理は遅い。

光電管とCCDの大きな差は、濃度の再現力である。光電管は3.6以上の濃度を再現するだ。コダクロームの濃度を十分再現できる。CCDの基本濃度は約2.5であり、各製品は工夫して見かけの濃度を出そうとしている。

多くのカラー・リバーサル・フィルムフイルムの最大濃度が3.0前後ある現在、フラットベット式のスキヤナでは、シャドー域(1.7〜3.6)の高度な再現は無理なのが現状だろう。印画紙や印刷など紙媒体の映像の濃度は約2.0だから、透過原稿には回転式ドラムスキャナ、反射原稿にはフラットベッドスキャナという使い分けは、実用的な分野では有効だ。

回転式ドラムスキャナは本来印刷用なので、RGBの光の三原色の信号を、色の三原色プラス黒=CMYKの信号に変換する。コンピュータのソフトによってはもういちどRGBの信号に戻さなければならないことがある。フラットベッドスキャナでは直接RGBの信号を受けとれる機械が多い。いっぽうでは、CMYKに変換する手間がかかるということでもある。

■10:カラースキャナとモノクロスキャナの特質を知る

多くの写真がカラーで撮影されている。そのぶん、カラー写真をモノクローム化する機会が増えている。カラーをモノクロームにするのはむずかしい。写真によって、赤味をモノクロームの濃度に強く反映させたほうがよいときもあり、青味を強調したほうがよいケースもある。解釈が要請され、スキャナ技術者の力量が問われる。 「1」で、「スキャナは、あらゆる原稿をカラーでかつ連続階調としてあつかう」と書いたが、単色印刷専用のスキャナがある。カラースキャナからカラー情報を扱う機能をのぞいた機械だ。プロセスのどこかでカラー情報を省いている。原稿がモノクロームなら問題は少ないが、原稿がカラーの場合、カラーをどうモノクロ化するかという解釈が機械にあらかじめ設定されているので、写真ごとの調整がしにくい。また、一冊の本で、ある写真はカラースキャナからのモノクロ化、ほかの写真はモノクロスキャナによる分解というとき、以外と調子がそろわないので注意が必要だ。モノクロスキャナは、どちらかというと効率優先だったり、使用目的に特製化した側面がある機材なので、限られた線数しかないなど融通が利かない点がある。

■11:パソコンだからこそ高解像度を要求する

印刷用の分解が最高品質で、パソコン用の分解はランクが落ちても仕方がないという見方があるが、間違った見解だろう。あくまでも出力方式に規定されるだけで、600DPIのプリンターで出力するならそれに見合った分解でよいというにすぎない。

入力されたデータをアミ点で出力するだけなら、必要最低限のデータでよい。ところが、パソコンは入力されたデータを加工することを可能にした。入力されたデータがアミ点を出力するだけだったとき、わたしたちが画素を見るは不可能だった。見ることができたのは、印刷会社の限られた部署のひとだけだった。いまでは、パソコンと画像編集ソフト、たとえばAdobe PhotoShopがあれば、ピクセルを拡大して見ることができる。本質的な解像度を目の当たりにすることができる。ごまかしも間延びもたちどころにわかる。

高精細製版は、刷版や印刷など多分野とのチームワークによって完成するプロの仕事だ。わたしたちアマチュアがより高解像度を求めるのは、二次原稿の精度を高めるためのことが多い。35mmのフィルムは、1cm2あたり30万画素の情報をもっているとされる。なぜ35mmのフィルムを例にあげるかというと、レンズ、フィルムともにもっとも高度に開発が進んでいるからだ。長辺方向に、約20万から30万の画素が並んでいる。DPIでいえば約14万だ。二次原稿が一次原稿の情報量を失わないためには、解像度はいくら高くても足りない。スキャナのダウンサイジングは、解像度のダウンサイジングではない。逆にパソコン時代は、より解像度を求める時代である。

■12:二次原稿もオリジナルである

20万DPIの性能をもつスキャナは当分出現しないだろうし、小さなスペースに記憶する装置も、高速に操作するパソコンもすぐにはあらわれないだろう。しばらくは、出力に見合った必要最小限の入力データで我慢するほかない。

現在、最高品質の二次原稿作成装置は、Kodak社のLVTだ。4×5インチのリバーサルフィルムに2400DPIの解像力で出力する。35mmフィルムの一次原稿からLVTの性能を十分に引き出そうとすると、実に8500DPIの分解が必要だ。一次原稿が4×5インチでも2400DPIが要求され、現状の1000DPIでは8×10インチの一次原稿がいるということだ。いかに高性能なスキャナが必要とされるかがわかる。

仮想現実が現実より程度が落ちるわけではない。二次原稿がすでにオリジナルである時代がきている。二次原稿が一次原稿に従属するわけではない。二次原稿が低く見られるのは、現在の技術では銀塩写真のもつ情報量を保持できないからだ。

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