テキスト・アーカイヴ
■写真製版を歩く[番外編] スキャニング(どう入力するか)の基礎19項(初出:会報35号)
フェアチャイルド社から世界初の電子製版彫刻機が市販されたのが1948年である。2年後の1950年に、PDI社がカラースキャナの試作一号機を完成させた。カラースキャナは、写真原稿を電子的に走査し、色分解や色調・階調の修正をおこない、結果としてポジまたはネガフィルムを発生させる機械のことである。

試作機は、学校の教室のスペース半分を真空管が占有したような大きさで、機械というより建造物に近いたたずまいのものだった。真空管が高熱を発生しつづける環境は、機械自体の動作を不安定にし、テストでは50%だったアミ点が、本番になると40%や60%に変化してしまうことがあったそうだ。

現在、印刷会社で使用しているダイレクトスキャナ(フィルムにアミ点を直に発生させるスキャナ)が使用している真空管は、光電管と呼ばれ、数十センチメートルの大きさしかなく、光の三原色RGB各色用の三本があればすむ。スキャナは、ドラムを高速で回転させ、500万の1秒を超えた露光速度でまたたきながら写真を読み込んでいる。

第二次世界大戦の戦後とほぼ同じ期間をかけて、カラースキャナもまた、小型化、高性能化、価格の低廉化というコンピュータと同じ道をたどっている。デジタル化の潮流のなかで、カラーかモノクロか、連続階調原稿か線画原稿か、プロ用かアマチュア用か、すべての区別が無効となるような大きな曲がり角に、写真製版はさしかかっている。写真を扱う編集者やデザイナーのために、風通しのよい必要最小限のマニュアルを記してみたいという気持ちにかられる。今後の連載の基盤を確かめる意味もある。

写真製版作業に携わっている西川からはさまざまなアドバイスをうけたが、いちデザイナーという門外漢の体験から大胆な断定をしたいと考え、鈴木の単独署名原稿とした。漏れや誤解があるはずだ。多くの意見をまちたい。

■01:スキャナの発想は、あらゆる原稿はカラーでかつ連続階調

DTP(卓上出版術=パソコンによる組版・製版)における色分解を考えてみよう。DTPという視点によって、いままでプロまかせであった色分解という魔術の内容が見えてくる。

スキャニングとは「走査する」という意味で、光を関知するセンサーが原稿を線状に往復し、連続階調をある単位ごとのデータに分割していくことだ。階調を分解する、連続を切断していくことである。連続階調からなる画像を、データに分解することを解像という。

製版カメラと呼ばれる光学レンズによる分解は、現在ではきわめて趣味的なものか、モノクロの低品質のものになっている。あらゆる画像原稿は、スキャニングされると思ってよい。本文の一色写真では、念のため「モノクロスキャナ分解」と指定しよう。

スキャニング作業にとっては、カラーかモノクロか、連続階調か線画(モノクロ二値)かという区別は意味がない。スキャナ(スキャニングする機械)は、あらゆる原稿をカラーでかつ連続階調としてあつかう。データから色に関する情報を捨て去ったものがモノクロであり、おなじように連続情報をのぞいたのが線画だと発想する機器である。

原稿作成のために、本や資料から複写しなければならないことがある。迷わずにカラー・リバーサル・フィルムで撮ろう。なるべくレンズを通過する回数を減らすことが肝心だ。紙焼きにするためにはもう一度レンズを通ることになる。レンズを通過した回数に比例して階調は劣化する。

印刷原稿用にイラストレーションなどを制作するならば、円筒状のドラムに巻くことができない肉厚のイラストレーションボードの使用は避けるほうがよい。カメラでいったん撮影しなければならないからだ。

■02:印刷にするのか、二次原稿をつくるのか

スキャニングは、連続階調をある単位ごとに分割しデータ化していく。その単位を、画素(ピクセル)とよび、画素の細かさを解像度であらわす。原稿をどの大きさの矩形で区切って濃度を記録していくか。細かさは、1インチ(十二分の一フィート、約25.4ミリメートル)あたりの密度(dot per inch=DPI)で表される。ミリあたりの解像度表示によって運用されているスキャナもある。ドイツでは、1センチメートルあたりの線数で表示するときく。数字が多いほうが、より精密な解像度で分解していることになる。コンピユーターのモニターとして使われてるブラウン管の基本は72DPIである。

どのくらいの解像度で分解すればよいか。大事なのは、なんのために分解し階調情報をうるかである。印刷フィルムのためにアミ点を得たいのか、二次原稿をつくるのかだ。

原稿を分解して印刷物にするとき、その原稿は一次原稿だ。一次原稿をもとに、色の調整・合成をして二番目の元原稿をつくるのを二次原稿作成という。デュープ・フィルムも二次原稿だ。二次原稿をもとにさらに三次、四次原稿がつくられることもある。入力された階調データは、出力されて平面上に定着される。入力解像度は、出力する装置の解像度に規定される。モニターのブラウン管にプレゼンテーションで写しだすだけなら72dpiでよい。一次は二次に、二次は三次によって決まる。

■03:スクリーン線数×2×原稿の拡大倍数(印刷寸法÷原稿寸法)=入力解像度(DPI)

印刷にする場合、アミ点のスクリーン線数(LPI=line per inch)の倍の解像度が目安だといわれている。公式は上記のとおりだ。たとえば原稿を原寸で印刷するとき、175線(LPI)で製版・印刷するならば、350DPIが必要ということになる。原稿にたいして二倍の大きさでレイアウトするなら、解像度はその二倍の700DPIになる。

■04:見かけの解像度と本質的な解像度

この公式を見ている限り、どんな原稿でも設定しだいで高品質の解像度が得られるような気になる。しかし、スキャナは解像度の限界をもっている。印刷会社が使用している高性能スキャナでも、日常的には1000DPIぐらいが上限だ。細かくは機種により、またセットアップの状態によって違う。35mmフィルムを1000DPIで分解し、175線で印刷するならば、理論上はどのくらいの大きさに印刷できるのかが計算できる。

公式は、総画素数÷(2×スクリーン線数)=印刷寸法(インチ)、である。

35mmフィルムの長辺は36mmである。1インチあたり1000DPIで分解するのだから、35÷25.4×1000=1417画素が、長辺方向に並んでいる。上の公式に当てはめてみると、1417÷(2×175)で、約4.05インチ(102.8mm)となる。長辺が10センチメートルでしかない。意外と小さい。スキャナ技術者は、指示が曖昧でどう分解したらよいのかよくわからないときは、1000DPI前後で分解する。1000DPI以上はないからだ。

この寸法より大きく使うときはどうするか。データを間延びさせているにすぎないことになる。間延びさせられた解像度を見かけの解像度と呼ぶ。間延びさせられたのではないオリジナルの解像度を、本質的な解像度と呼ぶ。

■05:モノクロの紙焼き写真の合理性

見かけの解像度が必ずしも悪いわけではない。ポスターのように一定の隔たりをもって眺められるものでは、見かけの解像度はおおいに役に立つ。線数も粗くてすむはずだ。

写真集は近距離からの凝視を前提にしているので、逃げ道がない。どうすればよいか。原稿を大きくすればよい。製版倍率を低くすることで解像度を保持すればよい。注目したいのはモノクローム写真集だ。カラーでも、原稿サイズを大きくすればよいように思えるが、35mmと8×10では、写真の質が変わってしまう。適切な解釈と修正を加えられて焼かれたモノクローム印画紙は、二次原稿ではあるが、オリジナルでもある。原稿のサイズも大きい。35mmのカラーフィルムをA4に拡大しようとすると、8倍前後になるのに対して、四ツ切りの印画紙を原稿にするなら原寸に近い。解像度に余裕を持って本づくりがすすめられる。

[ 次へ>> ]